ブログ

自作機・99g未満機・DJI AVATA2の「表現上の違い」と使い分けについて

はじめに

FPVドローンの撮影は、しばしば「速さ」や「派手さ」で語られます。
しかし実際の現場では、もっと静かな時間が流れています。

風の動き、被写体の呼吸、操縦者の迷い、危険の気配。
それらを一つずつ確かめながら、その日の空気に最も合う“筆”を選ぶ行為こそが、FPVの本質に近いと感じています。

FPVとは、
“どの機体で飛ぶか”ではなく、
“どんな世界を描きたいのか”が先にある撮影です。

自作機、99g未満機、DJI AVATA2。
三者が持つ性能差はもちろん大きいですが、その差以上に、映像が持つ人格が違います。

ここではスペックを並べるのではなく、
映像表現としての違いをお話ししていきます。


DJI AVATA2 ― 安定という余白を持つカメラ

AVATA2を選ぶとき、私はいつも“静けさ”を優先したいときです。

飛行時間が長いため、被写体が動き出す瞬間を待つことができます。
走り出す子ども、風に揺れる木、観光施設の人の流れ。
“待つ”という行為は、映像に深さや余白をもたらします。

DJI製品特有の安定感は、自作機のような鋭利さを少し抑えるかわりに、
空間の“ゆらぎ”を丁寧に拾う力を与えてくれます。

学校、商業施設、屋内空間など安全性が最優先される現場では、この“余裕”が大きな意味を持ちます。
緊急回避性能、電波の到達距離の長さ、そして編集現場が扱いやすいD-LogM対応。

AVATA2は、撮影者の意図を無理に拡張する機体ではありません。
むしろ、
「いま目の前にある空間を静かに聴くためのカメラ」
と言える存在です。

その穏やかな動きは、“ゆらぎ”を描く映像とよく馴染みます。


自作機 ― 衝動と鋭さを宿すカメラ

自作機を飛ばすときには、常に“緊張感”があります。
飛行時間は短く、安定性は低め。
そのため、映像はどうしても一撃必殺の表現になります。

しかし、この“危うさ”こそが自作機の魅力です。

スロットルのわずかな変化が加速として映像に刻まれ、
旋回の鋭さが観客の鼓動をわずかに速めます。
自作機は操縦者の癖を隠さず、
その瞬間の身体性が映像の中に生々しく残ります。

迫力のある映像、攻めた映像が欲しいときは、自然と自作機を選びます。

搭載するDJI Nanoは4K50fpsに対応しており、動きの激しい被写体を滑らかに捉えます。
ただし、電波はAVATA2ほど強くありません。
ショットの“引き際”を自分の判断で決めなければならない場面も多いです。

自作機とは、
**「映像に衝動を宿すためのFPV」**だと感じています。


99g未満機 ― 制約から生まれる軽やかな自由

99g未満機には、特有の“軽やかさ”があります。

航空法上の制限が大幅に軽減されるため、
通常なら撮影が難しいロケーションが開けていきます。
狭い通路、入り組んだ建物、人の流れが多い環境など、
**“本来存在しないはずの視点”**が生まれます。

一方で、軽さゆえに風に翻弄されやすく、環境の影響を受けやすい面もあります。
しかしその不安定さは、
ドキュメンタリーのような生々しい手触りとして映像に残ります。

軽量機は、環境と対立するよりも“寄り添う”ことが重要です。
時には、任せてしまったほうが美しい映像になることすらあります。

99g未満機とは、
**「制約を味方にし、空間に溶けていくためのFPV」**だと感じています。


三者の違いを「人格」としてまとめると

カメラ 映像の性格 適した現場 弱点
DJI AVATA2 静か・滑らか・余白がある 学校・施設・ロングテイク キレのある加速には向かない
自作機 攻め・衝動・鋭い加速 CM・アクション・屋外ロケ 飛行時間が短い/安定性低い
99g未満機 軽やか・即興性・細やか 狭所・許可困難な場所 風に弱く環境依存が大きい

これは単なるスペック比較ではありません。
それぞれの機体が“どんな映像を撮りたがっているのか”を比べた表です。


どの機体を選ぶべきか — それは“映像が求める身体性”で決まる

FPVの機体選択は、
「このカメラにしか歩けない線がある」
という前提から始まります。

  • ゆっくり呼吸するように空間を見せたいなら AVATA2

  • 心臓の鼓動でカメラが動き出すような映像が欲しいなら 自作機

  • 重力から一瞬だけ解き放たれたような浮遊感を描きたいなら 99g未満機

機体が変われば、描ける線が変わります。
線が変われば、世界の見え方も変わっていきます。


おわりに

FPVは単なる技術ではなく、“世界との向き合い方”に近いと思っています。
どの機体を選ぶかは、その日どんな気持ちで空間と対話したいかという、静かな問いのようなものです。

自作機、99g未満機、AVATA2。
それぞれが違う人格を持ち、違う物語を語ります。

FPVとは、空を飛ぶ行為ではなく、
その日の世界をどんな線で描きたいかという選択の積み重ねなのだと思います。